大阪高等裁判所 昭和30年(ナ)4号 判決 1955年12月20日
原告 谷川利八 外一名
被告 滋賀県選挙管理委員会
当事者参加人 鈴木儀一郎
主文
原告等の被告に対する請求を棄却する。
当事者参加申出を却下する。
訴訟費用中原告と被告との間に生じたものは原告等の負担とし、参加によつて生じたものは当事者参加人の負担とする。
事実
原告は、「昭和三十年四月二十三日執行の滋賀県議会議員選挙において当選人と定められた鈴木儀一郎の当選は無効であつて、原四郎が当選したことを確認する。」との判決及び「当事者参加人の参加申出を却下する。もし右参加申出が適法であるならば、当事者参加人の請求を棄却する」との判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決及び「当事者参加人の参加申出を却下する。」との判決を求め、当事者参加人は、「原告の請求を棄却する。昭和三十年四月二十三日執行の滋賀県議会議員選挙において当選人と定められた当事者参加人鈴木儀一郎の当選が有効であることを確認する。」との判決を求めた。
原告が請求原因として主張するところは、次のとおりである。
原告両名は昭和三十年四月二十三日行われた滋賀県議会議員選挙における甲賀郡選挙区の選挙人であるが、右選挙において次の六名が立候補したところ、神崎謙一は八、七五〇票、大北正史は八、一一一票、木村利一は七、七〇八票、鈴木儀一郎は七、一四六票、原四郎は七、〇八六票、松村二三子は一、二九五票の得票があつたものとして、神崎謙一、大北正史、木村利一、鈴木儀一郎の四名が当選人と定められ、同月二十六日被告委員会はその旨の告示をした。しかし、実際において鈴木儀一郎の得票であるべきものは七、一四六票より少く、次点の原四郎の得票はこれより多いから、鈴木儀一郎の当選は無効で、原四郎が当選人となるべきものである。そこで原告は同年五月十日被告委員会に異議の申立をしたが、被告委員会は同月二十八日これを棄却する旨の決定をし、同決定書は同年六月一日原告に交付された。しかしながら、
(一) 鈴木儀一郎の得票中次の四四九票は無効である。
(1) 甲第一号証から第三二九号証までの三二九票は、鈴木儀一郎の「郎」の右下に点の記載があり、
(2) 甲第三三〇号証から第三三九号証までの一〇票は、鈴木儀一郎の「郎」の左側に点の記載があり、
(3) 甲第三四〇号証から第三八〇号証までの四一票は、鈴木儀一郎の「郎」の下側に点の記載があり、
(4) 甲第三八一号証から第四〇三号証までの二三票は右以外の場所に点の記載があり、
以上(1)から(4)までの四〇三票の点の記載は、いずれも不用意に附着した汚点、単に筆勢によるもの、普通字句を書き終つた際その下部に打たれる習慣性の点、氏と名とを区分する点とはとうてい認められない。むしろ共通的な特徴を有するものが多数あつて、明らかに有意義の記号と認められるから、候補者の氏名の外、他事を記載したものとして無効とすべきものである。
(5) 甲第四〇四号証は「鈴木儀一郎」、甲第四〇五号証は表面に鈴木儀一郎の外裏面に「ス」、甲第四〇六号証は「鈴木儀一郎防」、甲第四〇七号証は「鈴木儀一郎バカ」、甲第四〇八号証は「鈴木儀一郎氏へ」、甲第四〇九号証は「鈴木儀一郎メ」との記載があつて、以上六票は、候補者の氏名の外、他事を記載したものとして無効である。
(6) 甲第四一〇、第四一一号証、第四二一号証、第四二五号証は「鈴本」、甲第四一二号証は「すずきいちろう」、甲第四一三号証は「スズ木、キイチ」、甲第四一四号証は「すずききこちこ」、甲第四一五号証は「すず本さま」、甲第四一六号証は「すキキち」、甲第四一七号証は「本一」、甲第四一八号証は「ぎち」、甲第四一九号証は「すぎ木」、甲第四二〇号証は「本」、甲第四二二号証は「鈴木様一」、甲第四二三号証は「ギいち」、甲第四二四号証は「スズキカイチロ」、甲第四二六号証は「鈴木利一」、甲第四二七号証は「本一郎」、甲第四二八号証は「スヾきチラウ」、甲第四二九号証は「すずり一」、甲第四三〇号証は「スブキ」、甲第四三一号証は「すずま」、甲第四三二号証は「フズき」、甲第四三三号証は「キチロウ」、甲第四三四号証は「ススモ三」、甲第四三五号証は「ろゝ」、甲第四三六号証は「鈴木一」、甲第四三七号証は「スヅギチロ」、甲第四三八号証は「すぐき一郎」、甲第四三九号証は裏面に「鈴川儀一郎」、甲第四四〇号証は「鈴木き一郎」、甲第四四一号証は「すすきき一郎」、甲第四四二号証は「鈴木キ一郎」、甲第四四三号証は「鈴川儀一郎」、甲第四四四号証は「鈴本儀一郎」、甲第四四五号証は「ヽズき」、甲第四四六号証は「鈴木キんチ」、甲第四四七号証は「鈴本キ一郎」、甲第四四八号証は「フキイチワ」、甲第四四九号証は「鈴木嘉一郎」と記載されており、以上四〇票は公職選挙法第六七条後段の趣旨を尊重しても、鈴木儀一郎の氏名を記載したものと確認できないから無効である。
従つて鈴木儀一郎の得票数七、一四六票から右(1)から(4)までの四〇三票、(5)の六票、(6)の四〇票計四四九票を差引すると鈴木儀一郎の有効投票は六、六九七票となる。
一方、
(二) 原四郎の得票には次の一〇票の有効票を加えなければならない。
(1) 信楽町開票区の候補者神崎謙一の得票中に明確に「原四郎」と記載された一票が混入していた。
(2) 甲第四五〇号証は「腹白」、甲第四五一号証は「アだシド」、甲第四五二号証は「原田四郎」、甲第四五三号証は「ハダ」、甲第四五四号証は「はラた」、甲第四五五号証は「ハダシ」、甲第四五六号証は鉛筆のあとが薄いが「原四郎」、甲第四五七号証は「四ド」、甲第四五八号証は「はす四」と記載されている。甲賀郡地方にはラ行の音をダ行の音で発音するなまりがあつて、「ラ」、「ロ」と記載すべきものを誤つて「ダ」、「ド」と記載したものである。現に甲第四五九号証でも明らかなように、「ハダシロ」と記載された投票が原四郎の有効票と判定されている。従つて以上九票は原四郎を記載したものと確認できるから、原四郎の有効票としなければならない。
原四郎の得票数七、〇八六票に右(1)の一票(2)の九票計一〇票を加えると七、〇九六票となる。
そうすると、有効得票数、鈴木儀一郎は六、六九七票に対し、原四郎は七、〇九六票となるから、鈴木儀一郎の当選は無効であり、原四郎を当選人と定めなければならないことは明白である。そこで被告に対し請求の趣旨記載の判決を求めるため、本訴を提起したものであるというのである。
当事者参加人の参加申出を不適法として却下せられるべきものとする理由は次のとおりである。
(一) 行政事件訴訟特例法第二条の「行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴」、いわゆる抗告訴訟においては、その性質上当事者参加は許されない。公職選挙法第二〇七条の地方公共団体の議会の議員等の当選の効力に関する訴訟は、純然たる抗告訴訟ではないが、これに準ずべきものであるから、民事訴訟法第七一条による当事者参加は許されないものである。
(二) 当事者参加人が、訴訟の結果によつて権利を害せられる恐れがあるものとするためには、本訴の当事者が当事者参加人の権利を不当に害する意思を以て、ことさらに勝訴又は敗訴の結果を招来する場合でなければならない。ところが被告滋賀県選挙管理委員会がその事務に関しことさらに第三者の権利を侵害する意思を以て訴訟を追行することはあり得ないから、同委員会を被告とする本訴についての当事者参加は不適法である。
(三) 当事者参加は一種の訴の提起に外ならないから、一般の訴の提起と同様、それ自体訴訟要件を具備することを要する。ところが
(1) 公職選挙法第二〇七条の地方公共団体の議会の議員等の当選の効力に関する訴訟は、当選人の当落に影響する関係が認められる場合に限り許されるのであつて、当選人が単に自己の当選の確認を求めるような訴は認められない。
(2) 仮りに右の訴が許されるとしても、右当選の効力に関する訴訟は、都道府県の選挙管理委員会の異議申立に対する決定を受けた後でなければこれを提起することのできないことは、同条第二項の規定によつて明らかである。
(3) 本件参加申出をするについて、原告が異議申立に対する決定を受けた後であることを以て足りるものとしても、原告に同決定書の交付されたのは昭和三十年六月一日であつて、本件参加申出のなされたのは同年十月二十七日であるから、本件参加申出は、本訴被告に対する当選の効力に関する訴訟の関係において出訴期間経過後のものである。
以上のように、本件参加申出は訴訟要件を具備しない不適法のものである。
仮りに当事者参加人の参加申出が適法であるとしても、原告が被告に対して請求原因として主張するとおりの事由により、当事者参加人の請求は理由がないから、棄却せられるべきものであるというのである。
被告が原告の請求原因に対する答弁として主張するところは、次のとおりである。
原告両名がその主張のような選挙人であること、昭和三十年四月二十三日行われた滋賀県議会議員選挙において原告主張の六名が立候補し、その主張のような得票があつたものとしてその主張の四名が当選人と定められ、その主張のような告示がなされたこと、原告主張のそれぞれの日に、原告が被告に異議の申立をしたが被告はこれを棄却する旨の決定をし、同決定書が原告に交付されたこと、甲第四〇六号証から第四〇九号証までの四票は、鈴木儀一郎の氏名の外、他事の記載があつて無効であること、甲第四二六号証、第四二九号証、第四四八号証の三票は鈴木儀一郎の氏名を記載したことを確認できないから無効であること、信楽町開票区の候補者神崎謙一の得票中に「原四郎」の得票一票が混入していたこと、甲第四五二号証の「原田四郎」の一票は原四郎の有効票と認めるべきこと及び甲第四五六号証の一票は鉛筆のあとが薄いが原四郎の有効票と認めるべきことは、いずれもこれを認める。
しかしながら、その他の投票についての原告の主張を否認する。従つて鈴木儀一郎の有効得票数は七、一四六票から前示七票を差引した七、一三九票であり、原四郎の有効得票数は七、〇八六票に前示三票を加えた七、〇八九票であつて、なお鈴木儀一郎の有効得票は原四郎の有効得票より多く、その当選を失うものでないから、原告の請求は失当であるというのである。
当事者参加人は、民事訴訟法第七一条の規定により参加の申出をしたものであつて、参加の理由として主張するところは、次のとおりである。
原告主張の選挙において当事者参加人鈴木儀一郎が七、一四六票の得票があつたものとして当選人と定められたことは認めるが、その他の原告主張事実を争う。仮りに当事者参加人の得票数に異動を生ずることがあるとしても、原四郎の得票は七、〇八六票より少いのであつて、当事者参加人の当選は有効であるというのである。
(証拠省略)
理由
まず、当事者参加人の参加申出が適法かどうかを考えるに、当事者参加は訴の提起に外ならないけれども、本件参加の趣旨は、民事訴訟法第七一条の規定により原被告双方に対しすでに当選人と定められている当事者参加人の当選が有効であることの確認を求めるものであつて、公職選挙法第二〇七条の規定による当選の効力に関する訴訟ではない。従つて都道府県の選挙管理委員会の異議申立に対する決定を受けた後において、一定の期間内にこれを提起しなければならないものではない。しかしながら当事者参加人の当選の有効確認を求める本件参加申出は、公法上の地位の確認を求めるもので、いわゆる当事者訴訟にあたるものである。同法第二〇七条の規定による当選の効力に関する訴訟の当事者双方を相手方として参加を申し出で、右のような当事者訴訟をすることは、訴の併合に外ならない。ところで行政事件訴訟特例法第六条の規定によれば、違法な行政処分の取消又は変更に係る訴訟、いわゆる抗告訴訟においては、いわゆる関連請求に係る訴に限りこれを前示の訴に併合することができることになつている。ところが選挙関係訴訟には当然に全面的に行政事件訴訟特例法が適用されるものではない。公職選挙法第二一九条の規定によると、選挙関係訴訟については、行政事件訴訟特例法第八条、第九条、第十条第七項及び第十二条の規定を適用することを定めたのにかかわらず、訴の併合に関する同法第六条の規定を適用することを定めていない。これは選挙関係訴訟については、それ以外の訴訟は、たとえその請求が関連するものであつても、併合を許さない趣旨と解しなければならない。何故ならば、公職選挙法においては、選挙関係訴訟の第一審を地方裁判所としないで、高等裁判所と定め(第二〇三条、第二〇四条、第二〇七条、第二〇八条、第二一〇条から第二一二条まで)、訴訟の判決は事件を受理した日から百日以内にこれをするように努めなければならないこと、裁判所は他の訴訟の順序にかかわらず速かにその裁判をしなければならないことを定め(第二一三条)、選挙関係訴訟の性質に照し、速かな訴訟の処理を期待しているものであつて、共同訴訟或いは同一の選挙に関する選挙訴訟及び当選訴訟等、同種の選挙関係訴訟間の訴の併合は許されるけれども、選挙関係訴訟とそれ以外の訴訟の併合は、訴訟を複雑とし審判の遅延を来す恐れがあるから、これを許さない法意と解するのを相当とするからである。従つて本件参加申出は不適法としてこれを却下しなければならない。
次に原告の被告に対する本訴請求について判断しよう。
原告が昭和三十年四月二十三日行われた滋賀県議会議員選挙における甲賀郡選挙区の選挙人であること、右選挙において原告主張の六名が立候補し、鈴木儀一郎は七、一四六票、原四郎は七、〇八六票その他原告主張のような得票があつたものとして、鈴木儀一郎が最下位当選人に、原四郎が次点者と定められ、同月二十六日原告主張の鈴木儀一郎外三名を当選人とする旨の告示がなされたこと、原告主張のそれぞれの日に原告が被告に異議の申立をしたが棄却せられ、同決定書が原告に交付されたことは当事者間に争がなく、原告がその後三十日以内に本訴を提起したことは本件記録によつて明らかである。
投票の有効無効に関する原告の主張について、被告はその主張の一部を認めているけれども、投票の有効無効に関する主張は、事実に基く法律上の見解の表明であつて、事実そのものの主張ではないから、たとえ原被告の見解が一致していても、裁判所は投票の効力について判断しなければならない。そこで原告主張の投票の効力について順次判断をすることとする。
(一) 鈴木儀一郎の得票中原告が無効を主張するものについて。
(1) 成立に争のない甲第一号証から第一六〇号証まで、第一六二号証から第一九二号証まで、第一九四号証から第三〇八号証まで、第三一〇号証から第三三九号証まで、第三九七号証、第三九九号証、第四〇二号証、第四〇三号証までによると、右三四〇票は点の記載があるが、いずれも鈴木儀一郎の「郎」の字に慣習的に打たれる点と認めるのを相当とする。
(2) 成立に争のない甲第一六一号証、第一九三号証、第三〇九号証、第三四〇号証から第三八〇号証まで、第三八八号証によると、右四五票は、「鈴木儀一郎」、「鈴木儀一」、「鈴木」又は「鈴木儀一郎様」の下側に点の記載のあることが認められるが、右はいずれも普通字句の切れ目に打たれるのと同様に習慣的に打たれたものと認めるべきものである。
(3) 成立に争のない甲第三八一号証から第三八七号証まで、第三八九号証から第三九六号証まで、第三九八号証、第四〇〇号証、第四〇一号証によると、右一八票は、「鈴木儀一郎」、「鈴木儀一」、「鈴木儀」の氏名の外に点の記載のあることが認められるが、右はいずれも誤つて不用意になされた打点と認めることができる。
以上(1)から(3)までの四〇三票の点は、いずれも右説明のとおりであつて、特に意識的に何事かを記載したものと認めることはできないから、公職選挙法第六八条第一項第五号にいわゆる候補者の氏名の外、他事を記載したものとして無効とすべきものではない。
(4) 成立に争のない甲第四〇四号証によると、右一票は「鈴木儀一郎」と「郎」に「ロー」の振仮名を付したことが認められるが、右は「郎」の字が明確でないため、これを明らかにするために記載されたものであり、成立に争のない甲第四〇五号証によると表面に「鈴木儀一郎」の外裏面に「ス」の記載のあることが認められるが、右は不用意に裏面に仮名で鈴木の氏を書こうとしたが、表面に鈴木儀一郎と記載しながら「ス」の字を消すことを怠つたものと認められ、いずれも意識的に何事かを記載したものと認めることはできず、いわゆる他事記載として無効とすべきものでない。
しかしながら、
(5) 成立に争のない甲第四〇六号証から第四〇九号証までによると、右四票は「鈴木儀一郎」の外、それぞれ「防」「バカ」「氏へ」「〆」の記載のあることが認められるから、右はいずれも他事記載にあたり無効といわなければならない。
(6) 成立に争のない甲第四一〇号証、第四一一号証、第四二一号証、第四二五号証によると、右四票は(甲第四一一号証は裏面に)「鈴本」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四四四号証、第四四七号証によると、右二票はそれぞれ「鈴本儀一郎」「鈴本キ一郎」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四一五号証によると、右一票は「すず本さま」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四一七号証によると、右一票の第一字は「鈴」の誤字、第二字は「本」、第三字は「儀」の誤字、第四字は「一」が記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四二〇号証によると、右一票の第一字は「鈴」の誤字、第二字は「本」が記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四三六号証によると、右一票の第一字は「鈴」、第二字は「本」、第三字は「儀」の誤字、第四字は「一」が記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四三九号証によると、右一票は裏面に「鈴川儀一郎」と記載されていることが認められ、成立に争のない甲第四四三号証によると、右一票は「鈴川儀一郎」と記載されておることが認められる。しかしながら、右候補者中に「鈴本」又は「鈴川」という氏のものはないから、右投票はいずれも鈴木儀一郎に投票する意思を以てなされたものと認めるのを相当とする。
成立に争のない甲第四四九号証によると、右一票は「鈴木喜一郎」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四二四号証によると、右一票は裏面に「スズキカイチロ」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四一三号証によると、右一票は「スズ木、キイチ」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四一四号証によると、右一票は「すずききいちこ」と記載されているが、第七字の「こ」は「ろ」の誤記であることが認められ、成立に争のない甲第四一六号証によると、右一票は「すゝキキち」と判読できることが認められ、成立に争のない甲第四一八号証よると、右一票は「ぎちろ」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四二三号証によると、右一票は「ギいち」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四三三号証によると、右一票は「キチロウ」と記載されておることが認められる。しかしながら右候補者中に「喜一郎」「カイチロ」「キイチ」「ぎちろ」「キチロウ」等の名を有するものはないから、右投票はいずれも鈴木儀一郎に投票する意思を以てなされたものと認めなければならない。
成立に争のない甲第四一九号証によると、右一票は「すぎ木」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四二二号証によると、右一票の第一字は「鈴」、第二字は「木」、第三字は「儀」の誤字、第四字は「一」、第五字は「郎」と記載されたものと認められ、成立に争のない甲第四二七号証によると、右一票の第一字は「鈴」の誤字、第二字は「木」、第三字は「義」、第四字は「一」、第五字は「郎」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四二八号証によると、右一票の第一字は「ス」、第二字は「ツ」、以下「きチロウ」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四三〇号証によると、右一票は「スブキ」と記されておるが「ブ」は「ズ」の誤記であることが認められ、成立に争のない甲第四三一号証によると、右一票は「すずま」と記載されておるが、「ま」は「き」の誤記であることが認められ、成立に争のない甲第四三二号証によると、右一票は「フズき」と記載されておるが「フ」は「ス」の誤記であることが認められ、成立に争のない甲第四三四号証によると、右一票は「ススキシ」と記載したもので、「シ」は「氏」の敬称を付したものであることが認められ、成立に争のない甲第四三七号証によると、「スヅギチロ」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四一二号証、第四三五号証、第四三八号証、第四四〇号証、第四四一号証、第四四二号証、第四四五号証、第四四六号証によると、右八票は順次「すずきいちろう」、「スヽキ」、「すゞきき一郎」、「鈴木き一郎」、「すすきき一郎」、「鈴木キ一郎」、「スズキ」、「鈴木キイチ」と記載されておることが認められる。又成立に争のない甲第四四八号証によると、右一票は「フブキイチロ」と記載されておるが、「フブ」は「スズ」の誤記であることが認められる。
成立に争のない甲第四二六号証によると、右一票は「鈴木儀利一」と記載されておることが認められる。そして候補者中に木村利一という者があるけれども、右投票は候補者鈴木儀一郎の氏を正確に表示しており、その下に記載された名「儀利一」は、木村利一の名と合致しているものではなく、「儀一郎」の名と三字中二字まで共通しているから、氏名を全体的に考察すると、右投票は鈴木儀一郎に投票する意思を以てなされたものと認めるべきものである。
従つて以上(6)に掲げた投票は、いずれも鈴木儀一郎の有効投票といわなければならない。
しかしながら、
(7) 成立に争のない甲第四二九号証によると、右一票は「すずり一」と記載されておることが認められるが、右投票は「すず」とあつて鈴木儀一郎の氏を完全に表示したものでなく、「り一」は他の候補者木村利一の名に合致するから、候補者の何人を記載したかを確認できない無効のものといわなければならない。
そうすると、鈴木儀一郎の有効投票は、七、一四六票から、(5)の甲第四〇六号証から第四〇九号証までの四票と(7)の甲第四二九号証の一票とを差引した七、一四一票となる。
(二) 原告が原四郎の有効投票として加えるべきものと主張するものについて。
(1) 信楽町開票区の候補者神崎謙一の得票中に「原四郎」と記載された一票が混入していたことは当事者間に争がない。
(2) 成立に争のない甲第四五〇号証によると、右一票は「腹白」と記載せられておることが認められ、これを音で読めば「はらしろ」であつて原四郎の音にあたるけれども、その筆跡の相当達筆であることからみて、原四郎の字をしらないためにあて字を書いものとは考えられない。むしろ心だてのよくないという意味の「腹黒」に対して、原四郎の音にあたる「腹白」をひやかして書いたものであつて、とうていまじめに原四郎を投票する意思を以て記載したものと解することはできない。従つて右一票は原四郎の有効投票と認めることはできない。
しかしながら、
(3) 成立に争のない甲第四五二号証によると、右一票は「原田四郎」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四五四号証によると、右一票は「はラた」と記載されておることが認められ、候補者中に「原田」という氏のものはないから、右二票は原四郎に投票する意思を以てなされたことは明白である。
成立に争のない甲第四五六号証によると、右一票は鉛筆のしんの折れたまま書いたため鉛筆のあとが薄いけれども、「原四郎」と記載されておることを認めることができる。
成立に争のない甲第四五一号証、第四五三号証、第四五五号証、第四五七号証によると、右四票は順次「アだシド」、「ハダ」、「ハダシ」、「四ド」と記載されておることが認められ、成立に争のない甲第四五八号証によると、右一票の第一字は「は」、第二字は「ら」の誤字、第三字は「四」と記載されておることが認められる。そして地方によつてはラ行の音をなまつてダ行の音で発音するところのあることは明らかな事実であつて、「ラ」、「ロ」と記載すべきものを誤つて「ダ」、「ド」と記載したものであり、「アだシド」の「ア」は「ハ」の誤記と認められ、他の候補者中「四郎」という名の者はないから、右五票はいずれも原四郎に投票する意思を以てなされたものと認めるのを相当とする。
そうすると、原四郎の有効投票は七、〇八六票に(1)の一票と(3)の八票とを加えた七、〇九五票となる。
従つて鈴木儀一郎の有効投票は七、一四一票で、原四郎の有効投票七、〇九五票よりなお多数であるから、鈴木儀一郎は当選を失うものでなく、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却しなければならない。そこで訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九四条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 喜多勝)